第3章 欧州の右傾化

2023年11月10日

第3章

欧州の右傾化

イタリアやドイツ、フランス、フィンランドなど欧州の多くの国々で、過激な極右を含む右派政党が支持を広げている。「難民・移民の排斥」に加えて「反既得権益」「反既成政党」といった主張を掲げることが多いこれらの政党は、ポピュリズム(大衆迎合主義)的な色彩が強い。伝統的な保守・中道右派政党の退潮が目立つ中、欧州はこのまま「右傾化」の度合いを強めていくのだろうか。

「ムソリーニは優れた政治家だったと思います。彼が行ったことは全てイタリアのためでした」

2022年10月からイタリア初の女性首相を務めるジョルジャ・メローニ氏「イタリアの同胞」は1996年、フランスのテレビ局とのインタビューでこのように述べ、かつてイタリアを第二次世界大戦に引きずり込んだ独裁者、ベニト・ムソリーニ(45年4月に処刑)を礼賛したとして物議をかもした。

そこで、下記の3点を考えてみます。

 

①   中道右派政党・国民党が第1党になったスペイン下院議員選挙の結果と今後。

②   ヨーロッパで相次いでいる右派政党台頭。

③   右派の台頭がロシアのウクライナ侵攻とパレスチナ問題が国際社会にどのような影響を与えるのか?

これらを考察してみましょう。

①   まず、23日投票が行われたスペインの下院議員選挙の結果です。

350議席のうち野党の中道右派・国民党が136議席、次いで与党の中道左派・社会労働党が122議席、極右のボックスが33議席、そして社会労働党と連立を組む左派連合が31議席をそれぞれ獲得しました。
今回の選挙は5月の統一地方選挙で与党・社会労働党が大敗したことを受けて、サンチェス首相が12月の任期満了を待たずに下院を解散して踏み切ったもので、世論調査では、国民党とVOXの2党で過半数を制する勢いでしたが、開票の結果は国民党が第1党の座を奪還したものの2党あわせても169議席で過半数には届きませんでした。今後は左右両派がいかに地域の小政党を取り込むかが焦点となりますが、新政権発足は難航が予想され連立に失敗すれば再選挙となる可能性もあります。
VOXが前回選挙より議席を減らしたのは、極右政党の政権入りに有権者が警戒感を強めたためと見られます。というのもスペインでは1975年まで40年近くにわたってフランコ独裁体制の恐怖の時代が続きました。与党はそうした過去を引き合いに出して極右が政権入りすれば大変なことになると訴え続けました。それだけ極右政党が支持を拡大し政権入りが現実味を帯びていたことに危機感を強めたといえます。

極右政党VOXは2013年に設立された前回19年の選挙で第3党に躍進しました。EU・ヨーロッパ連合に懐疑的で厳格な移民政策を掲げ、LGBTの権利拡大に反対、カタルーニャ地方などの独立運動にも反対の立場をとっています。国政レベルでの政権参加はひとまず回避されそうな状況となったものの、すでに地方レベルでは国民党との連携が進んでおり今後も一定の影響力を持ち続けることになりそうです。

急進的な右派政党や民族主義・差別主義的な極右に共通しているのはEUに懐疑的で、難民や移民の排斥など非寛容な政策を打ち出している点です。ヨーロッパではそうした政党が各地で支持を広げています。

②   イタリアでは去年10月、「第2次世界大戦後もっとも右寄り」と言われる政権が発足しました。ファシスト党の流れを汲む右派政党「イタリアの同胞」と極右の「同盟」、それに中道右派の「フォルツァ・イタリア」による連立政権で、同盟とフォルツァ・イタリアはロシアのプーチン大統領と友好的な関係を維持してきました。

フィンランドでは先月、中道右派「国民連合」のオルポ党首が、中道左派の「社会民主党」のマリン前首相に代わる新しい首相に選出されました。連立政権には4月の総選挙で第2党となった右派政党「フィン人党」が加わっています。「フィン人党」はEUに懐疑的な立場をとり、移民の受け入れ制限を掲げて改選前の2倍以上の議席を獲得しました。多様性を重視し手厚い社会福祉を柱としてきたフィンランドは大きな曲がり角に来ています。

EUをけん引するドイツでも右派政党が存在感を増しています。排外主義を掲げる「ドイツのための選択肢」が先月25日、旧東ドイツのチューリンゲン州の郡のトップを決める選挙で勝利してドイツで初めて自治体の首長のポストを手にし、今月も北部のザクセン・アンハルト州の町長選挙で勝利しました。「ドイツのための選択肢」は、既存の政治に不満を持つ有権者の受け皿となって世論調査の支持率でも2位に浮上し、今後さらに支持を伸ばすことも予想されます。


 フランスでも去年、大統領選挙の決選投票で、極右「国民連合」のマリーヌ・ルペン氏が40%を超える票を得た他、6月の総選挙では国民連合が結党以来最大の89議席を獲得してマクロン大統領の与党「再生」に次ぐ第2党に躍進しました。


スウェーデンでも去年9月の選挙で、極右とも呼ばれる「スウェーデン民主党」が第2党に躍進し、閣外協力しています。オーストリアやポーランド、ハンガリーなどでも右派政党が台頭しています。

③   ではなぜ、こうした政党が支持を広げているのでしょうか。
冷戦終結後イデオロギーの対立がなくなり、既存の政党間の違いが曖昧になったことで急進的な右派政党や極右が存在感を高めたといえますが、それらの政党が台頭した背景にはグローバル化(意欲的で能力のあるものは富む社会)が格差の拡大とエリート層に対する不満ややっかみが増大しました。ハンガリーやポーランドなどでは冷戦終結後積極的に民主化を進めたものの格差は解消されず、民族主義、大衆迎合主義的な右派政党が政権を握りEUにたびたび反旗を翻しています。地域や国家間だけでなく国内の格差もいぜん解消されておらずドイツでは経済的に後れをとっている旧東ドイツ地域で右派政党が支持を広げています。2010年代前半のギリシャに端を発したユーロ危機や2015年の難民危機も排外主義的な政党の台頭を招く結果となりました。
さらにこうした動きに拍車をかけたのが新型コロナの感染拡大とロシアのウクライナ侵攻です。コロナ過では経済の落ち込みに加えて、外出制限などの自粛を迫られた人々の不満が強まり、フランスやイギリスなどでは治安当局との衝突も起きました。ロシアのウクライナ侵攻ではエネルギーや食料の価格高騰、景気の後退によって多くの市民の生活が圧迫され、政府への不満が強まりました。祖国防衛の重要性が高まり保守的な論調が支持され、軍備費の増大をまねいたと思われます。急進的な右派政党や極右の台頭がこのまま続けば、国家の安定を損ねるだけでなく、ロシア、中国、イラン、北朝鮮等の権威主義の国々に対する西側陣営の結束が揺らぎかねず、経済への影響も少なくありません。

権威主義陣営の国々は現在グローバルサウスの国々との関係を強化しつつあり、国際情勢に大きな変化をもたらす可能性を秘めていると僕は考えております。
ただ、これはヨーロッパだけの問題ではありません。アメリカも社会の分断(共和党と民主党)がより深刻化し、ある意味分断状態になりつつあると思います。


国際秩序が揺れ動き不確実な時代だからこそ排他的で、民主主義や法の支配を否定するような勢力の台頭をこれ以上招かないように各国政府は格差の是正につとめ少数派を含むすべての国民の声に耳を傾けていくことが求められます。それは日本も決して例外ではありません。差別や排外主義を許さず、政治への信頼を取り戻すための不断の努力が欠かせないことと同時に国連の改革(常任理事国の廃止)を断行し、付帯する国債司法裁判所の決定に従わない場合、罰則が伴うしくみを導入してほしいと切に願います。